「辿り付けないガンダーラであるところの萌えをどうやって描くかがテーマなんですよ。自分では萌えだと思うものを書いても「萌えない」って言われるとそれまでだし……。」

「紆余曲折の末、「デュアルライティング」って言葉を使うことに(暫定的だけど)決めました。そしてエクソシストゲームは、デュアルライティングを説明するために案出した"極端化した比喩"です。」
萌え(仕様)と萌え作品

「設定(ネタ)とシナリオストーリーの関係は、たぶん次のように捉えられることが多いでしょう。」

* ネタは、シチュエーションや属性を使って書かれる。
* ネタは、(時間的に)シナリオストーリーに先だって存在する。

「これは違うと思うよ。次のように考え直しましょう。」

* ネタは、ある種の自然言語で書かれる(べき)。
* 設定(ネタ)とシナリオストーリーは、どちらが先というわけでもなく、適当に混じり合った順序で作成される。

「感情は自然言語によって表現されるので、それは言葉であり、もちろん(適切な人間の上で)共感可能(であるべき)です。」

ネタ設計

「仕様を書くこと、つまり萌え設計に使う言語は、心の叫びです。ここでは慣用句を使いましょう。」

*ヒロインは眠り姫と見せかけて実は人魚姫に転生してました

悪魔のシナリオライター

「さて、執筆者として女悪魔を登場させましょう。彼女は悪魔なので、設計者の意図 / 構想は完全にお見通しです。彼女は悪魔なので、設計者の意図 / 構想を知った上で、わざと意図 / 構想と違う記述をします。例えば、"落ちもの"インターフェースだけが提示された段階では次の記述をします。」

三国志を愛するあなたの心がわたしを呼び出したのです」

それは女の子と呼ぶにはあまりに大きく、重く、無骨すぎた。それはまさに関羽だった。

「ただし、この悪魔はけっこう素直な奴で、条件が提示されれば、それを作品に取り込むし、制約が課せられれば、それを遵守します。でも悪魔ですからね、条件や制約に記述されてないことに関しては、ことごとく設計者の意に反することをやらかします。」
意地悪だが素直な奴

「とりあえず、「美少女」という制約を考えてみると、これは

* 標準成人女性体系 ± 10%
* 無作為抽出した 100 人程度の成人男性が「美しい」と認める容姿

を意味します。」

「素直な悪魔は制約には従うので、記述を次のように変更します。」

三国志を愛するあなたの心がわたしを呼び出したのです。ヤー!」

関羽と名乗る美少女は青龍刀で僕を真っ二つにした。

「これで制約を満足するかって? 制約には「美少女ならば」という条件が付いているので、この事前条件が成立するときは何も問われない、つまり OK なのです。関羽だろうがなんだろうが美少女なので、制約は常に満足されます。」
悪魔を追いつめる悪さ封じの呪文

「ここらへんで、設計者をエクソシスト(悪魔払いの祈祷師)と呼び替えます。萌え仕様記述の制約は、悪魔が悪さするのを封じる呪文なのです。どんどん呪文を積み重ねて、悪魔が悪さをする余地をなくすのがエクソシストの仕事です。次の呪文を追加しましょう。」

* 美少女は主人公を傷つけてはならない
* 美少女は主人公にベタ惚れであれ

「ここで、主人公を肉体的・精神的・社会的に傷つけるような言動は封じられます。念のため言っておくと、次の記述を悪魔が採用することはできません。」

関羽と名乗る美少女は青龍刀で己の首を切り落とした。

「なぜなら、「主人公を傷つけてはならない」ので、目の前で自殺することで主人公に精神的ショックを与えてはならないからです。」

「悪魔は、こうくるでしょ。」

三国志を愛するあなたの心がわたしを呼び出したのです。ヒャッハー!」

関羽と名乗る美少女は青龍刀で僕をいじめた奴らを輪切りにし始めた。

戦いは続く

エクソシストは次の呪文を投入します。」

* 狂人禁止

「これで、人を殺すわけにはいかなくなります。もちろん悪魔は、腹黒キャラで対応します。エクソシストは追い打ちをかけます。『俺のターン』」

* 純粋無垢で穏やかな心を持つこと

「おー、これは効果的だぁー。悪魔も苦しくなってきたぞー。」
エクソシストゲームからデュアルライティングへ

「と、まー、こんな感じで進むのがエクソシストゲームです。エクソシスト = 設計者は、悪さを封じる呪文 = 萌え制約を駆使して悪魔と戦います。」

「この戦いはいつまで続くのでしょうか。エクソシスト = 設計者が、自分の意図 / 構想を仕様(萌えシチュの積み重ね)として完全に表現し尽くしたと思ったとき、そして悪魔の小説家がその仕様に対して valid となる小説を書いたとき、それが戦いの終わりです。」

「ここで、悪魔とエクソシストという 2 つの役割が登場しています。また、設計者と執筆者という 2 種類の書き手も出てきてますね。これら、対立するようで相互補完しあう 2 者にちなんでデュアルライティングと名付けました。」

「実際には、こういうことをやると、設計者の萌えの機微が明示的に丸裸にされる上、楽しいのは執筆者だけなので、途中で設計者がブチ切れて大喧嘩になるでしょう。この構造により、世界は混沌としてもっと面白くなります。その話は、またいずれ。」